日本に吸血鬼がいないわけ ヨーロッパ文化圏では死者が動き出す! 吸血鬼・ミイラ・ゾンビ 吸血鬼 日本

ヨーロッパ文化圏では死者が動き出す! 吸血鬼・ミイラ・ゾンビ


火葬は進んだ文化を持つ地域に早くから浸透しており、死体を早く焼いて消滅させることで、霊魂を速やかに新しい場所へ移し、生まれ変わってくることを期待していました。
特に旧大陸では火葬はインドを中心に、日本を含めた東アジア、東南アジアの広い地域に分布しています。ヨーロッパでは、新石器時代にブルターニュから南ロシアにかけて広い地域で火葬がみられ、特に後期青銅器時代の骨壺墓地文化が盛んでした。ローマ帝政期に入ると、復活の思想が広まり、土葬を採用したキリスト教が中心になったため、ヨーロッパでは広く土葬が行われるようになったのです。
19世紀頃から墓地の不足する事態になり、しばしば火葬が行われるようになっています。しかし肉体と霊魂の結びつきを強く意識するヨーロッパ文化圏では、火葬が広く普及するにはまだ時間がかかりそうです。

ヨーロッパ文化圏で怪奇物語の代表格といえば、吸血鬼です。
人の血を吸うというこの怪物は、夜、墓場で埋葬されたはずの土の中から現れます。基本的に吸血鬼は、死んだ者が葬られてから、墓の中で再び息を吹き返すと伝わります。
ミイラも甦ると信じられており、葬られてから包帯を巻いたまま墓から出て、動きまわるとされます。ゾンビは腐った死体のまま、醜い姿で動きまわります。
土葬の文化がなければ誕生しなかった怪物たちです。

霊魂は肉体と強く結びつき、物語の中では実態のある怪物として人々に恐怖を与えています。死体は醜いという認識が強いのですが、物語の中では逆に美しい姿をしている場合もあります。
復活した死者たちの多くは、恐ろしい事件を巻き起こした後、生きている人間によって退治されます。殺された死者(!)は灰しか残らなかったり、あとかたもなく消えてしまうのです。

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日本のオバケ

一方、日本では文化の発達と共に土葬から火葬に切り替わっていきました。墓地には人魂が浮かび、足のない女の幽霊がさまよい、特徴的な妖怪たちが人々を怯えさせます。ところが墓石を持ち上げて登場する怪物はいないようです。

日本では、肉体は死を迎えると速やかに火葬し、火葬によって分離された霊魂の安らぎを願います。一方では怨みや悲しみを抱いた霊魂は、この世をさまよい続けるといいます。
お岩さんなど、特定の人物に恨みをもった霊の他は、ほとんど怪物たちは現世に生きる人間には無害と認識されています。時にはおもしろい姿をして、人間と仲良くなろうとする妖怪やオバケもいるようです。

腐りかけた死体、あるいはミイラといった醜い肉体を曝す前に火葬してしまうことで、日本ではオバケは未知のものに対する恐怖を感じる対象でしかありません。一部地域では、死体が動き出すことを怖れて手足を縛ったり、石を抱えさせて屈葬する場合もあります。
しかし死体が葬られてから動くという状況は、日本の物語にはほとんど登場してきません。戦や刑罰で斬首された首が「生首」として動きまわる場面が語られているくらいです。

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物語からみる日本人の霊魂信仰

死の世界は恐ろしい、というのは共通した認識であるようです。例え天国へ行くと約束された人間も、やはり死によって醜い姿に変化します。土葬やミイラなど、死体を保存あるいは長期にわたって安置することは、霊魂は肉体に宿っているという考えが強いからでしょう。また、再生への祈りも込められていましたが、現在の科学では生前の姿で生き返ることは皆無であることは人々に知られています。
社会主義国家ではかつての指導者、例えばレーニンなどは遺体保存されていますが、宗教的な理由であるかどうかは疑問が残ります。レーニンは内臓を取り出した後、ホルムアルデヒドを主成分とするバルサム液にという防腐剤に漬けこみ、蝋人形のようになっています。
遺体の定期的なメンテナンスに多額の費用がかかるため、わずかにレーニン、毛沢東、ホー・チ・ミン、金日成など数例しかみられません。遺体保存には現ロシアの専門家が行っています。

日本人の魂は容易に抜け出し、時には生きている人間からも魂が抜け出て悪さをすることさえあります。例えば、『源氏物語』の六条御息所のように。彼女は光源氏を愛するあまり、彼の周囲の女たちを嫉妬から呪い、自ら生霊となって彼女たちを苦しめ、時には死へ追い込みます。しかし魂の抜け出た六条御息所の肉体は、魂が戻ってくると、自分のしたことを覚えていないのです。わずかに悪霊避けの芥子の香りが衣服に染みついていることから、自分が生霊として何かをしたことを知るのでした。

こうして物語から日本の霊魂信仰をたどってみますと、ほとんど土葬が行なわれていた平安時代にも、すでに肉体と霊魂は別であるという認識があったことに驚きを感じます。

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